大胸筋のバーベルトレーニングを、基本となるベンチプレスを中心として上部・下部・内側・外側の部位別種目とそのやり方を解説するとともに、胸郭を広げるための筋トレ方法まで徹底的にご紹介します。
■大胸筋の構造と作用
●大胸筋の英語名称・構造・部位詳細・起始停止
大胸筋は非常に面積の広い筋肉で、大きくは上部・下部・内側・外側に分けられます。腕を斜め上に押し出す時には上部が、斜め下に押し出す時には下部が、腕を開閉するときには外側と内側がそれぞれ主体となって働きます。このことを意識してトレーニングを行うとより効果的です。
○大胸筋上部:腕を斜め上方に押し出す
○大胸筋下部:腕を斜め下に押す出す
○大胸筋内側:腕を前で閉じる
○大胸筋外側:腕を横から閉じる
■大胸筋の筋トレの負荷回数設定
●まずは1セット15回で慣れれば8回
筋トレをして筋肉を太く強くする場合にターゲットにする筋繊維は、速筋と呼ばれる瞬発的な動作をする筋繊維です。速筋にはFGタイプ(筋繊維TYPE2b)とFOタイプ(筋繊維TYPE2a)とがあり、それぞれに最適な負荷と反復回数は、前者で8~10回、後者で15回前後で限界がくる重さです。
なお、初心者の方は、まず15回で限界がくる負荷設定で鍛え始め、慣れてくればより高負荷の8回で限界がくる重量設定で鍛えるのがおすすめです。
■大胸筋全体のバーベル筋トレ
●バーベルベンチプレス
こちらがバーベルベンチプレスの模範的な動画です。まず、ベンチに仰向けになり、肩甲骨をしっかりと寄せて構えます。軽くブリッジを作り、肩甲骨2点とお尻のあわせて3点で上半身を支え、さらに足を踏ん張って計5点で全身を支えます。
こちらが、肩甲骨を寄せて上半身を支えるフォームと、肘と手首の位置関係をあらわした模式図です。常に手首の真下に肘があるように動作し、バーベルの重量は前腕骨で支え、それを肩甲骨で受け止めるイメージで動作を行います。
また、肩甲骨を固定したら、下半身で上半身を押し込むように力を入れ、ブリッジを作ります。これにより、全身が安定するとともに下半身の力も上半身へ伝えることが可能になります。
ラックからバーベルを外したら、肩甲骨の寄せが緩まないように気をつけながらみぞおちの真上までバーベルを移動させ、そこから筋力でコントロールしながら下ろしていきます。
胸にバーベルシャフトがついたらバーベルを押し上げますが、この時に肩甲骨を寄せたまま押し始めることに意識を集中してください。
この意識ができていないと、肩から先行して動くフォームになってしまい、肩関節に大きな負荷がかかるので注意が必要です。
トレーニングとしてバーベルベンチを行う場合には、完全に肘が伸びるポジションまでバーベルを押し上げる必要はなく、やや肘が曲がり筋肉に対する負荷が抜けない位置(肘を伸ばしてロックしない位置)で折り返すようにします。
なお、一般的な筋トレでは「力を入れながら息を吐く」ことが基本ですが、バーベルベンチプレスにおいては息を吸い込んだまま呼吸を止めて、胸郭を広げて行う呼吸方法がやりやすいでしょう。
●フロアーベンチプレス
ベンチ類がなく、バーベルセットだけある環境では、床に直接仰向けになりベンチプレスを行うフロアーベンチプレスで通常のベンチプレスと同様の効果を得ることができます。
実は下半身の力が全く使えないため、通常のベンチプレスよりも強度が高く、国内の格闘技関係では「寝差し」と呼ばれ、上半身の高負荷トレーニングとして行われています。
なお、力尽きたときに危険ですので、直径の十分ある20kgプレートを使うようにしてください。
■大胸筋上部のバーベル筋トレ
●インクラインベンチプレス
こちらが、模範的なインクラインバーベルベンチプレスの動画です。
肩甲骨を寄せて構え、バーベルをラックアウトしたら胸の真上まで移動させます。そして、筋力でコントロールしながら胸までシャフトを下ろし、その後に真上にバーベルを押し上げます。
最大のポイントは「肩甲骨を完全に寄せきったまま動作する」ことで、これができていないと肩関節に強い負荷がかかってしまい痛めるリスクがありますので、十分に注意してください。
また、インクラインバーベルベンチプレスは、最後まで尻を浮かせないことも非常に重要です。セット終盤で苦しいからと尻を浮かせてバーベルを押し上げると、せっかくの大胸筋上部に効果のある「斜め上方に腕を押し出す軌道」が失われ、通常のフラットベンチプレスとあまり変わらなくなってしまいます。
最後まで、しっかりとシートに尻をつけるようにしてください。
●リバースグリップベンチプレス
こちらが、リバースグリップベンチプレスの模範的な動画です。リバースグリップのままラックアウトすると、バランスが崩れて危険なため、まずはノーマルグリップでラックアウトし、いったんバーベルを胸に下ろします。
そこでグリップをリバースに握り直してから挙上動作に入ります。なお、補助者がいる場合はラックアウトの時点でリバースグリップでもかまいません。
リバースグリップベンチプレスのポイントは、脇を開かないことで、あまり脇を開くと負荷が分散するだけでなく、手首に強い捻れ負荷がかかりますので、十分に注意してください。
また、肩甲骨を寄せていないと肩にも負担がかかるため、セット中は肩甲骨のロックを外さないようにすることも重要です。
■大胸筋下部のバーベル筋トレ
●デクラインベンチプレス
デクラインバーベルベンチプレスの模範的な動画がこちらになります。仰向けになり、肩甲骨を寄せ、肩甲骨2点と尻の合計3点で上半身を支えて構えます。
バーベルをラックから外したら胸の真上まで移動し、そこから筋力で支えてコントロールしながら胸に下ろします。そして、そこから真上にバーベルを押し上げます。
セット中は常に肩甲骨を寄せたままの状態を維持し、肩から初動しないように注意してください。
デクラインバーベルベンチプレスはセット終盤で苦しくなってきたときに、軽く尻を浮かせてセルフ補助することも可能で、このチーティングを上手に使うとより効率的に追い込むことも可能ですが、重量を追求するあまりどこまでも尻を浮かせることになりがちですので、あくまでも「効かせるための尻浮き」という意識を忘れないことが大切です。
■大胸筋内側のバーベル筋トレ
●クローズグリップベンチプレス
ナローベンチプレス(クローズグリップベンチプレス)の模範的な動画がこちらです。仰向けになり、肩甲骨を寄せて構えますが通常のベンチプレスほどブリッジは意識する必要はありません。
バーベルをラックアウトしたら、胸の真上まで移動させ、筋力でしっかりとコントロールしながらバーベルを下ろします。そこから肩甲骨を寄せたまま、三角筋が先に動かないように気をつけてバーベルを押し上げます。
なお、肘の開き具合により効果のある部位が上腕三頭筋長頭から短頭へと変化しますが、長頭狙いの場合はややヘソよりに下ろすことがポイントです。
ナローベンチプレス(クローズグリップベンチプレス)は、手幅をあまり狭くしすぎると手首関節に斜め方向の強い負荷がかかってしまうので、肩幅以上に狭めないことをおすすめします。
また、動作中に肩甲骨のロックが外れてしまうと、肩関節に開き負荷がかかりとてもリスキーです。セット中は肩甲骨を寄せるイメージを常に持つようにしてください。
■大胸筋外側のバーベル筋トレ
●ワイドグリップベンチプレス
ワイドグリップベンチプレスは、手幅を広くして行うベンチプレスのバリエーションです。
ベンチに仰向けになり、肩甲骨をしっかりと寄せ、尻と足もそれぞれベンチと床に設置させて全身を安定させます。そこから、肩甲骨のロックが外れないようにバーベルをラックアウトし、みぞおちの真上まで移動させます。
そして、筋力でしっかり支えながらみぞおちまで下ろし、肩甲骨のロックを外さないように注意してバーベルを押し上げます。
また、ワイドグリップベンチプレスでは、特に肩甲骨のロックを外さないようにすることが重要で、これができず肩から先行して動作してしまうと、通常のベンチにプレスよりも強い負担が肩関節に加わってしまいますので、十分に注意してください。
■胸郭を広げるバーベル筋トレ
●バーベルベントアームプルオーバー
こちらが、大胸筋に負荷を集中させられるバーベル「ベントアーム」プルオーバーと呼ばれるバリエーションです。その最大の特徴は、肘を90度弱に曲げたまま動作を行うということです。
また、グリップは肩幅程度にし、肘をあまり開かずに構えることも大胸筋に負荷を集めるために重要です。
さらに、大胸筋の収縮と首の連動性を考慮して「顎を引く」ということも大切なポイントです。
●胸郭トレーニングも大事
・大胸筋の土台を広げるメソッド
また、大胸筋を発達させていくためには、大胸筋自体の筋トレだけでなく、その土台となる胸郭を広げていくことも非常に重要です。
▼胸郭の拡張トレーニング
■部位別のバーベルトレーニング
■ベンチプレス世界ランカーの記事
下記の記事は、当サイトGLINTに客員執筆いただいている、パワーリフティング選手で世界ランカーでもある奥谷元哉選手によるベンチプレス専門記事です。